”なんまいだぁの夜”に寄せて   浅賀 茂子

 盆送りを済ませた翌日の十七日の夜は、中耕地の地区に古くから伝えられている、”なんまいだぁの夜”の行事が行われます。 

 この地区の人達は、親しみを込めて『今夜は、なんまいだぁが廻ってくるよ』と言います。鉦を鳴らしながら、大きな数珠を廻して『なんまいだぁ、なんまいだぁ』と唱えながら、中耕地の男の子だけが各家庭を廻ります。この素朴な行事はいつの世から始められたのでしょうか?このことについての資料などは残されていませんから、分かりませんが、村人の話では、かなり古くから伝えられてきたとのことです。

 昔の鉦を鳴らして、この行事に携わってきた数知れない男の子の手に触れ、その時代を生き抜いてきた老若男女の哀歓に触れてきたこの大きな数珠の一珠一珠は、艶めき光っています。この数珠で痛む肩や腰を撫でて貰えば御利益があると言われています。 

 昔はどの家も子沢山でしたから、男の子も大勢居ましたが、今は少子化が進み、今年は男の子が居らず、代わって女の子三人が、区長さん、班長さん同伴で『なんまいだぁ』を唱えて、家々を廻りました。それでも続けられることは良いことと思っています。

 遠くから『なんまいだぁ、なんまいだぁ』の声が鉦の音と共に聞こえて来ると、玄関に灯りを点けて待っています。大きな艶めき光る数珠に触れさせて貰って、ささやかですが、報謝をお渡しして『なんまいだぁ』の声を見送りました。

 群馬百名山に数えられている、自然豊かな崇台山の懐に抱かれた、中耕地の住民が守っていくこの素朴な行事を、いつまでも続けられる事を願いつつ、住民一人一人の平穏無事を祈りつつ、”なんまいだぁの夜”を今年も過ごすことができました。

ウィンドウを閉じる